北欧語書籍翻訳者の会

Group of literary translators from the Nordic languages into Japanese

2018年10月茶話会レポート

(よこのなな)

 10月28日(日)の日本時間18時より、「北欧語翻訳者茶話会」が開催されました。東京とスウェーデン国内3か所、合計4カ所の会場に集まったのは、18人。テレビ会議のソフトで各会場をつなぎ、ほぼ3時間まるまる、話題が尽きることなく、(少しの合間にはしっかりおやつを食べたり、他会場のテーブルを「おいしそうなものがたくさんあるね…!」とうらやましそうに眺めたりしながらも)、北欧語の翻訳に関するおしゃべりが熱く繰り広げられました。

■「北欧語翻訳者茶話会」開催のきっかけ

 この会は、翻訳家同士がつながり合って協働することの意義を、ノルウェーの翻訳家協会や、翻訳セミナーのことなどを挙げながら書かれていた翻訳者の呼びかけからはじまりました。一読者としても、文化的な仕事に関わるものとしても、頷くことが多く、詳しくお話を聞いてみたいなあと思っていました。

 今年の8月半ば、メンバーの1人がツイッターで、「北欧語翻訳者で集まる会を開きたい」と書かれ、すぐに「やろう、やろう」と声があがっているのを外から眺め、うわーいいなあと思っていたところ、ご連絡をいただきました。本当に驚きましたが、勢いで「参加します!」と即答、準備が進むにつれ、こんな錚々たるメンバーが集まる会に本当に参加していいんでしょうか???という気持ちは募っていきましたが、しっかり参加させていただきました。

■茶話会の概要

 茶話会当日は時間の制約があるため、予め質問を出し合ってSNS上で共有し、それぞれに回答を考えておく、という形が取られました。当日は参加がかなわなかった方からも質問や回答が寄せられました。

 集まった質問や回答、波及する話題は、読むだけでも勉強になる充実の内容でした。けれども、対面で話し合い、フィードバックやコメントをその場で出しあうことで、さらに内容を深めることができ、やっぱり(たとえウェブを通じてであっても)直接に会うというのは、意義があることなのだなあ、と改めて実感しました。情報技術のおかげ、インターネットすごい! 

 それでもやっぱり3時間という時間は内容に対しては短すぎたようで、あっというまに過ぎてしまい、もっともっと話したいことがある、という感じになりました。ぜひぜひまた近いうちに集まりたいですね、という声が聞かれました。


■茶話会での話題

 質問のうち、多くのコメントが寄せられた項目について、当日の様子を振り返りながら、ざっとまとめてみます。

・持ち込みについて

 持ち込みの方法やタイミングの計り方、返事がない場合は…といった悩みなどについての質問が挙がっていましたが、そこからどんどん話が広がり、かなり盛り上がりました。

 持ち込みは出版社に対して行うもの、と考えていた人が多かったのですが、エージェントに対する働きかけをする、という新たな視点からの回答が寄せられていました。どうすれば持ち込みの打率を上げることができるのか、という質問についても、具体的なアドバイスがたくさんありました。また、出版社の視点に立った回答や、連絡行き違いの体験談などもありました。

 ベテランの方からは、翻訳者を取り巻く状況が以前とは変わってきているが、それでも「この本は絶対に日本の人に読んでほしいという熱意」や「自分はこれで仕事をしていくんだという熱意、姿勢」を示すことはやっぱり大事だ、という力強くも温かい言葉が寄せられ、わたしはちょっと泣きそうになってしまいました。


・重訳について

 北欧言語は重訳の対象になりやすく、その是非、原文と英訳(もちろん「英訳」だけではありませんが、英訳が圧倒的に多いのでここでは便宜上「英訳」としておきます)の狭間に立つ翻訳者としての悩み、などが質問に挙がっていました。この話題も活発な意見が交わされました。

 重訳そのものの是非については、意見は様々なようですが、出版社によっても判断が違うそうです。重訳の大きな問題としては、原語から英訳される際に大きく意訳されたりカットされたりする場合があり、それをさらに日本語に訳すと原文からかなり離れたものになってしまう可能性があること、それでも編集過程では英訳版をもとにチェックしていくことが多い、ということなのではとみなさんのお話を聞いていて思いました。

 なじみの薄い慣習などを省く、地名や名前を変えるといった編集上の判断の是非はさておき、その判断をするためにはやはり原文に当たらないといけないのではないかという意見や、原語からの訳と重訳した場合の比較を見せてその差を考えてもらう、といった意見が出ました。一方で、セールスの観点から翻訳版では簡略することもよしとする著者の意向を伝えた上でどうするかを編集に委ねた、といった体験談も話されました。また、いわゆる「おんな言葉」問題や、機械翻訳にまで話が及びました。

・原書や現地の情報をどうやって入手し、フォローするか

 これは個人、対象言語によってさまざまな回答がありました。原書情報については、ブックフェア参加、エージェントのカタログ、英訳されている作品をまとめたサイト、などが挙がりました。エージェントからサンプルが送られてくるという話には、思わず読者目線で「いいなー!」と思ってしまいましたが、あまりよいと思えない作品だと困ってしまう、ということで、ああ、なるほど、そんな悩みもあるのだなあ…。そういう場合はなるべく早くこういう理由で自分には訳せないと伝えるべきだ、とのアドバイスもありました。

 現地の情報については、おすすめのラジオ番組を紹介される方が複数ありました。北欧ではラジオがさまざまなジャンルを網羅する番組を制作していて、これは本当にうらやましいし大いに活用したい、と個人的にも思います。

 また、直接に現地情報ではないですが、わからないことを尋ね合える翻訳者フォーラムを活用するとよい、といった話もありました。

・兼業/専業について

 翻訳を専業にされている方、別の仕事もされている方、いろいろなようですが、いずれにしてもなかなか大変だ、という声があちこちであがりました。そうして、話題は、印税や翻訳料についてだけでなく、各国における翻訳者の社会的地位、電子書籍の印税率や今後の見通し、といったところにまで及びました。個人的には、翻訳者に対して印税が支払われる国は少ないという話が印象的でした。

・翻訳書が読まれない/売れない

 上の話題に続いて、あまり芳しくない状況を踏まえ、どう打破していくのか、翻訳者に何ができるか、という話で後半は盛り上がりました。翻訳者が行なっているイベントとして、村上春樹作品のデンマーク語版の翻訳者によるもの、日本の「はじめての海外文学」の試みなどが例として挙げられ、いろいろなコメントが出ました。

 では、北欧語翻訳者としてやれることはなんだろう、という問いが出てきたあたりで、お開きの時間となってしまいました。この問いは、今後の活動をどうするか、ということとともに、次回に持ち越しとなりました。

・今後の活動について

 というようなところで、今回の北欧語翻訳者茶話会は終了となりましたが、その後、当日話し合うことができなかった項目や、持ち越しとなった話題について、SNSを通じて非常に活発に議論が続いています。わたしが「すぐやるぜ!」という気持ちだけは持ちつつも、のろのろとレポートを書いている間に、はやひと月が過ぎてしまいましたが、今後の活動については具体的な企画も進んでいます。

■その他の話題について

上に書いた以外にも、挙がっていた項目はまだまだたくさんあります。

・読者からのコメントや評価

体験を交えた複数の回答があり、拍手が上がりました。自分が納得するしかないのではないかな、というコメントの裏にあるものの大きさや深さを思いました。

・統一表づくり

専門用語や官公庁などの表記を統一できないだろうか、という意見には多くの賛同が寄せられました。

・エージェントとの関係

エージェントは、どんな仕事をどんなタイムスケジュールのもとに行っているのか。それを把握しておくことはとても大切だなと思いました。

・辞書について

ウェブを中心にいろいろな情報が寄せられました。

・翻訳のスキルアップ

日本語の力と現地語の力、両方をどう磨いていくのか。音読を何十年も続けているという声もありました。

・カタカナ表記

北欧語はカタカナ表記がむずかしいと思っていましたが、これはどうもスウェーデン語が特にむずかしいのでしょうか…。いろいろな発音があり、それに応じていろいろな表記があって当然ではないか、というコメントは、個人的には目から鱗が落ちるようでした。

・取り組みたいジャンル

 みなさんそれぞれで、読者としてはとっても楽しみです。

・スウェーデン語系フィンランド人作家

 おそらくたぶんいちばん有名なのは、トーベ・ヤンソンですが、それ以外は、となると、なかなか名前が挙がりにくいようです。紹介されることが少ない分、よい作品が隠れているのでは、ということで、こちらも今後が楽しみです。

・北欧の書籍を日本で出版することの意義

 作品に社会的な意義を見出す、作品そのものの質を重視する、などなど、みなさんそれぞれのスタンスがあるようです。そういった意味では、いろいろな作品が紹介される可能性があります。一方で、作品は北欧社会を反映するものでもあるので、並べてみるとどこかに北欧というカラーが出てくるかもしれません。個人的には、「北欧もの」についてどのように考えているのか、出版する側の意見を聞いてみるのもおもしろいのでは、と思いました。

・翻訳した作品の映像化

・契約

・翻訳助成金について

■北欧語翻訳者茶話会に参加して

 ちゃんとした翻訳者でもないのに参加してよいのだろうか、という気持ちを抱きつつ、飛び込んでみた茶話会は、会自体はもちろんですが、その準備段階でも、終了した後にも、学ぶことばかりです。一方で、実力もスピードもまったく足りないため、どんどん進んでいく話題を追うのに精一杯で、あっぷあっぷしてもいます。でも、自分も何か少しでもできればいいな、できることをみつけたいな、というとても前向きな心もちでもあります。

 「ずっとあなたの翻訳を読んできたんです」というような方々にお会いしてお話を伺うのは、本当に大きな体験でした。

また、北欧語という共通言語だけで、いろいろなバックグラウンドを持つ人たちが一堂に会すことができる。北欧の作品紹介のために一緒にがんばろう、という気持ちを持てる。初対面でも楽しく話せて、また近いうちに会いましょうね、と手を振れる。これもうれしい驚きでした。

なんだかとっても胸が熱くなり、ぽやーっとした気持ちで帰路につきました。いろいろあってぐったりすることが多い毎日ですが、茶話会でのあの気持ちを思い出せば頑張れる、という気がしています。

 こんな素晴らしい場を作ってくださり、準備を進め、当日の司会も務めてくださった、(そしてタイムキープもばっちりの)、発起人の枇谷さんへの感謝をここに改めて記したいと思います。

 冒頭でも書きましたが、翻訳者たちが協働できるしくみが日本にもあれば、という希望を枇谷さんは以前に書かれていました。北欧語翻訳者でおしゃべりする会をやりませんか、という枇谷さんの呼びかけから始まったのは、茶話会だけでなく、まさに協働と連帯のプラットフォームではないかと思います。このプラットフォームを拠点にいろいろな活動が末永く続きますように、と心から願っています。わたしもその一助を担えるように、担えるようになるように、精進したいと思います。

(種田 麻矢)

全体的な感想

複数の会場を繋いで開かれた会は、実際に開始するまではどんな形で進行するのか想像もつかなかったが、実際、大きな問題もなくスムーズに意見交流ができたと思う。また、想像以上にとても意義のある会だった。私のような新米翻訳者にとって、北欧語翻訳に携わっている様々な方や出版関係者の方々との意見交換また情報交換など、自分一人では恐らく収集できないような貴重な情報や助言を頂き、改めて同業の方との意見交換の重要さを感じたし、また刺激的だった。時間の関係で議論でききれなかった質問が複数あり残念に思うが、改善の余地はあると思う。

参加されている皆さんの意見が聞けるよう、発言されていない方に「◯◯さんはどうですか」などやんわりと 聞いてみるのも良いかもと思った。

今回は数カ所に別れて開かれた会なので難しいが、もし今後ひとつの会場で行う機会があるとすれば、例えばグループごとに別れてひとつのトピックについて5分か10分ほど話し、それをまとめて会全体で 報告し合うという形式はどうだろうか。

当然なのかもしれないが、全員の専門分野、経歴などがそれぞれ違うため発言のしやすいトピックやそうでないもの、また自分に関係のある/興味のあるトピックとそうでないものも個人それぞれ違うのだろうなと、トピックごとの発言頻度を見ていて感じた。

個人的な感想

翻訳駆け出しの立場として、知りたいけど今更聞きにくい 内容(上記で述べたような印税の仕組みやエージェントと出版社の関係について)、また持ち込み用の書類をどのように作成しているかなど情報交換できる場が今後開催することが出来れば良いなと思った。これは今回のような会とは別に「勉強会」として開くことができないだろうか。

これは私の経験の浅さによるものだが、予備知識がないトピックに関して (私の場合、印税のシステムやエージェントについてなど)は意見交換に付いていくのが多少難しく感じた。私はまだ「お金より経験」という考えの段階なので(それがいけないのかもしれない)、翻訳料その他条件によって仕事を選べる立場になれるよう、もっと翻訳出版に向けて精進しようと思った。

会の内容についての感想

持ち込みについて:

エージェントに持ち込むという手段、また持ち込みの際に現地での売上、新聞でのレビューなどを言及することもプラスになるといった事を教えていただき、今後実践してみようと思った。

重訳について:

「英訳=原語」という出版社の認識に愕然としたが、少なくともこの認識を少しでも変えるには翻訳者が地道に声を発して編集者に伝えていくしかないのかなと思った。

(久山 葉子)

今回初めてこうやってたくさんの訳者さんと意見交換することができ、とても勉強になりました。特に、翻訳経験の量にかかわらず、みなさん熱心に情報収集されたり知識向上のための勉強をされたりしているのを目の当たりにして、大変刺激になりました。

個人的な話になりますが、スンツヴァルには富山クラーソン陽子さんが泊まりに来てくださったおかげで、1泊2日で翻訳などについてじっくり語り合う機会をもつことができ、それもとても刺激になりました。皆さんもそれぞれの場所で交流を深められたことかと思います。この会のおかげでそういった機会が生まれたことにも感謝しています。

種田麻矢さんのご指摘にあったように、この業界の仕組みや用語に慣れている方々とそうではない方々がいて、対面ではないし人数も多いしでわからない部分があるまま進んでしまったところもあるでしょうね。それは今後また開催するときにどのような構成で進めていくかよく考える必要がありそうですね。

集まるのかSlack上でやるのかは様々だと思いますが、今後それぞれの興味に応じて勉強会や部会を開いていければ素晴らしいと思います。言い出しっぺなので僭越ながら「訳語統一表」の部会は幹事をさせていただこうと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。

Kulturrådet(スウェーデン文化評議会)を絡めたイベント企画も真剣に実現するといいなと思います。また、フィンランドの翻訳者の方がおっしゃったように翻訳小説全体で手を組んでいかないとというのもそのとおりだと思います。わたしは自分に企画力や発想力がないのは自覚しているので、ぜひお手伝いはさせていただきたいと思っています。



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